2015年4月12日日曜日

本当は上に立ちたい人たち

 ある種のポストにつくと負担が増えて嫌だ。最近は、そういう人たちが増えているという傾向があるらしい。

しかし、それは本当のことなのだろうか?

口では言うのだ。

「負担が増えるから嫌だ。」

しかし、実際は違っていた話を紹介する。


 とある法律事務所の話。

登場人物は、

・事務員C  40歳 女 事務員のリーダー的存在(らしい)事務員の中で一番声が大きい存在 中途採用
・事務員M  50代 男 別の会社にいたが、管理職になることを嫌い退職し、法律事務所に中途採用
・事務員S  30代半ば 男 ごくごく普通に見える事務員 中途採用
・事務員T  30代後半 女 普通な感じの事務員 中途採用
・弁護士J  事務所のボスではないが、対事務員で経営者側の意向を伝えたり事務員の不満を聞く、事務員から話しやすいと思われていて、ボスから事務所の内部管理を任されている弁護士
・バイトH  30代 事務員Cと仲が悪く、事務員Mと親しい


当時の状況


 当時の事務所は法人化へ移行することが決まっていた。
 それまで事務員は特に誰かを長とするような役職を設けていなかったが、法人化を期にこれを設けることを決定した。
 そして、弁護士Jは事務員に「事務長」なる役職を設けることを宣言する。

弁護士の思惑と事務員Mの拒絶


 弁護士側の思惑としては、最年長である事務員Mを、その役職に据えたく思っていた。
 しかし、Mはこれを拒絶。どうしてもというなら辞職も辞さないとの返答に、弁護士はあきらめざるを得なかった。

事務員制度に反対する事務員C、しかし・・・


 弁護士Jは、事務員Mと親しくしていたバイトに「断られたのだが、Mさんに事務長をやってほしいんだが・・・」ともらした。おそらくこれはバイトから事務員Mへの働きかけを期待したのであろう。
 しかし、バイトHは事前に事務員Mから「そういう役職につくのが嫌だから前職をやめたんだ」と聞いていたので、弁護士Jの期待する行動は一切取らなかった。
 そんな中、事務員Cの声が一段と大きくなる。
 「ただでさえ手一杯なのだから、事務長なんてできるわけがない」
 (いや、誰もまだあなたに頼んでいませんが?)
 「そういう制度は事務員間の不公平を生む。一人に仕事が集中しすぎる」
 事務員Cは事務長制度に反対である旨を公言し、他の事務員にも賛同を呼びかけていた。
 しかし、事務員Cはこのようなことを言いながら、実はその心は既に事務長気分に浸っていた。
 Cは法律事務については事務員中一番のベテランであり、他の事務員たちもC自身もMがこれに就任しないならばCが事務長となるものと思い込んでいただろう。
 Cは他にばれていないと思い、ネットで書き込みをしていた。その書き込みは、
 「今日、部下が・・・」
 既に他の事務員を部下呼ばわりしていたのだ。
 そして、この事実がいつの間にか他の事務員たちに知られるところとなった。
 事務員のリーダー的存在だったCであったが、ネットでの書き込み内容により反感を買い、次第に他の事務員との仲が悪くなっていき孤立し、最終的には退職へと至った。

事務員Tを推していた事務員S、しかし・・・


 事務員Cの退職により事務長選びは振り出しに戻る。
 年齢及びキャリア的に、事務員Sと事務員Tのうちどちらかが選ばれるものと考えられた。
 なお、この二人は同じ中途採用であったが、事務所への採用は事務員Sが先であった。
 その事務員Sが皆に言っていたのが、
 「Tさんが事務長にいいと思わない?」
 後日、弁護士Jは事務員Sを食事に誘った。その目的は、誰が事務長にふさわしいか意見を聞くためであった。
 その食事の場で、事務員Sは、
 「僕が事務長をやります」
 と弁護士Jに直訴したという。
 日ごろの言動通りに事務員Tを事務長に推薦するかと思いきや、まさかの事務員Sによる自薦であった。
 そして、その結果、事務員Sは事務長に就任するに至った。


 公言していることが必ずしも本心ではない。チャンスと見れば、自分を売り込む。
 いい悪いではないのだ。そういう性質を備えた者も、世の中には存在する、いや多く存在するだろうことを認識し、うまく立ち回るべきなのだろう。